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中古の軽自動車で北海道から南アフリカへ行ったら、ロックダウンと戦争で日本に帰れなくなりました【すみません、ボクら、迷子でしょうか?:第1話】

優しい島は、迷子知らずで観光要らず

「一生に一度くらい、外国に住んでみたいよね」

2005年の春、仕事を辞め、家を引き払い、アメリカへ飛んだ。ロサンゼルスでスクーターを買い、テントや寝袋といったキャンプ道具を山ほど積んで、移住先を探す旅に出た。

2年ほど世界をまわれば、どこかに天国のような楽園が見つかると思ったのだ。

古民家を手に入れてリノベし、家庭菜園に精を出す。お小遣い欲しさにプチ起業したら、そこそこ成功してほくそ笑み、夫婦仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし。

……となるはずだった。

が、迂闊なことに、台湾で2015年の春を迎えたのである。10年間も海外をうろついてしまった! こんなことでは、一生、移住生活なんて始まらないのではないか!

抜本的に旅のスタイルを変えねばならぬ、と立てた企画が、「車で、南アフリカへ行こう!」である。

アフリカまで行って帰ってくれば、楽園なんかよりどりみどりに違いない。って、ただ乗り物が変わっただけのような気がするが、その乗り物に軽自動車を選んだために、旅は無駄に味わい深くなってゆく。

長距離ドライブともなると装備は最低限に。ベッドは若干寸足らず。
右側の木箱はバッテリー(2015年)

2015年、稚内からサハリン島へ。ロシアである

2015年のお盆すぎ、稚内からフェリーに乗って、サハリン島に渡った。ロシアである。

これまで世界一周を果たしたと豪語するバックパッカーにたくさん会ったが、ひとりとして訪れていない謎の島、サハリン。距離的に日本から一番近い外国だというのに、何故に避けるのか。

島の地図を眺めるに、サハリン島ほど旅人に優しい島はないように思える。まず、南北に細長い。幹線道路は背骨のように一本しかない。これは嬉しい。どこへ行っても迷うことなく迷子になる方向音痴のボクらでも、道に迷えそうにないのだ。

また、その一本道は旧日本軍が敷いたもので、“軍用道路”と呼ばれている。一般人が近寄ってはいけないようなデンジャラス感が漂い、「国道を走りました」より、だんぜん偉業感がある。労せずして、ほかの旅人に自慢しやすい。

さらに喜ばしいことに、サハリン島には“死ぬまでに一度は行ってみたい”ほどの観光地はない。ほかの旅人に、「○○に行ってないんですか?」と、指摘されかねない必須の穴場もなさそうだ。

“迷子知らずで観光要らず”ともなれば、ほぼ同じ大きさの北海道より旅行しやすいと道産子ながらに思うのである。

ボクらの楽園を探す旅

ところで、自分でハンドルを握る旅ともなると、道中の99%は名も無き土地となる。 殊に軽自動車だと、高速道路はもちろんのこと、制限速度が100kmを超えるバイパス道も走りにくい。そのため欧米では、わざわざ地元の人も利用しないような旧道や田畑を紡いで、道に迷っていた。

ボクらの楽園を探す旅は、誰も知らない名も無き集落で休み、食事をし、あたりを見渡す。

無粋な観光客にじろじろ見られていない土地、そこに暮らす人々、案外心がこもっていない仕事ぶり、見られることを考慮していない汚れ放題の家々、そこはかとなく見応えがある。メニューの文字を読めないがための“名も無き料理”は、正解がわからないぶん味わい深い。

そんな佇まいを気に入れば、わが家だけの秘密の名所として“マイ秘境”と呼ぶ。諸条件をクリアすれば“楽園”に昇格し、移住候補地になるのである。マイ秘境を求めて、旅人に優しい島を北上した。

見知らぬ土地で車中泊するときは、クマに気をつけたい

ユジノサハリンスクの町を一歩外へ出ると、人の気配が消えた。行き交う車も途絶えた。

舗装された軍用道路は、サハリン鉄道に沿って延びている。雑草の隙間に傾いた墓石が覗く。ときおり見かける廃墟は、島の青年はペンキを買うお小遣いがないようで、ストリートペイントで汚されていない。

サハリン島の廃墟は、窓、ドア、天井とお金になりそうなものはすべてない(ロシア/2015年)

壊れた鉄橋の下で釣り糸を垂れる人を眺めながら言うのも恐縮だが、無人島を探検しているようなロビンソン・クルーソー感にワクワクしていた。

400kmほど北上したあたりで、世界一親切な人に出会った。

ギネスブックに申請したいくらい優しくて、逆に迷惑だった彼については、著書『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』に譲るとして、軍用道路のアスファルトはなくなり、土か砂利、ときどき砂地。砂埃を巻き上げながら、さらに東京→大阪間ほどの距離を北へ向かう。

いくつもの森をかきわけて、最北端の町オハに辿り着いた。黒い雲に押しつぶされた、鼻毛にカビが生えそうな辛気臭い町である。沿道の人たちが、「なんだあの車?」と不躾な視線を送ってくるが、目が合わないように巧みにかわす。はやく車中泊できそうな駐車場を探さねば、日が暮れそうだ。

この旅では、車中泊を心がけることにしている。その点、サハリン島は無人島風味なので、気がねなく車中泊できそうである。ストリートペイントがないから、強盗はいないだろう。

無人島と思えば、トイレは野となれ山となれ。さぞかし星はきれいに違いない……とか言いながら、森のお世話になるつもりは一切ない。

クマがいるのだ。

クマは左右の安全を確かめずに道路を横断する(ロシア/2015年)

見知らぬ土地で車中泊するときは、クマに気をつけたい。

アメリカやカナダをスクーターで走っていたとき、いく度となくクマに遭遇している。邪気のないつぶらな瞳で鮭を追いかけ、「あれ、どこへ行くんだっけ?」って顔で道路の真ん中に立っていた。

普通車を蹴散らす腕っぷしがあるので、軽自動車の敵ではない。遠慮も挨拶もなく、晩飯を食べたボクらを晩飯にしかねないのだ。

車中泊の初日は、雑居ビルの駐車場で寝た。夜中の12時を過ぎても子供たちが遊んでいたので、クマが出たとしても彼らが先だろう。

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