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中古の軽自動車で北海道から南アフリカへ行ったら、ロックダウンと戦争で日本に帰れなくなりました【すみません、ボクら、迷子でしょうか?:第1話】

番犬がいるのに襲撃された

翌日は、大きな廃工場を訪ねた。 瓦礫の影から出てきた胡散臭いおじさんに、「駐車場で車中泊していいですか?」 と訊くのだが、ボクらが知っているロシア語は、

  • ズトラストビーチェ(こんにちは)
  • スパシーパ(ありがとう)
  • スタヤンカ(駐車場)

この3つだけ。

動詞がないので笑顔で代用するのだが、この手の有効な単語に乏しい会話はたいてい「ナニ言ってんだよ、ぜんぜんわからんよ」と、カメムシ顔をされる。やがて埒が明かなくて苦笑いに変わる。

そのうちアホらしくて笑い出したら、すかさず固い握手。スパシーパ(ありがとう)をひつこく繰り返して、交渉成立ということにしている。廃工場のおじさんは飲み込みが早く、すぐに笑ってくれた。

それどころか、1秒も会話が成り立っていないことに気づいていないのか、なんだかんだと15分以上もロシア語をしゃべり続け、笑いあい、最後に、「というわけだから、持ってけ!(想像訳。以下同様)」 と、水を持ってきた。ポリタンクに20リットルも。

いったい何の話をしていたのでしょう、ボクら。行水すると凍死しそうな夜に。

水を受け取ったらドアを閉められて真っ暗。クマの心配より、拉致られた気がして怖い(ロシア/2015年)

3泊目は、どうしてこんなところにお店が! と存在意義を問われそうな辺境の雑貨店だ。五体満足な番犬がいるので、クマは来ないのだろう。

例によって、「こんにちは」「駐車場」「ありがとう」だけで交渉を済まし、お礼に缶詰やジュースを買った。

寝る時は運転席に荷物を積むので、クマが出てもエンジンをかけられない(ロシア/2015年)

その夜、襲撃されたのである。晩飯を食べ終えて寝ていたところ、

ドンドンドン!

車を叩かれた。

ドンドンドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ!

Yukoと抱き合いながら息を潜めていたが、次第にガンガンガンガンガンッ!と激しくなっていく。

いい加減無視できなくなって、そーっと3cmほどドアを開けたら、「ほーらっ、いたーっ!(想像訳)」

3人のおっさんがウォッカを振り回していたのである。

「隠れてないでよー」

めちゃくちゃご機嫌に酔っぱらって「飲もうぜーっ!」

「いえ、結構です。おやすみなさい」

って、例の3単語で、わかってくれますかね?(第2話へ続く)

■著者プロフィール、続きの話は、こちら

『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』(WAVE出版)

2023年1月19日発売。海外車中泊旅で起こる数々の事件を、軽妙洒脱な文章で綴った旅の記録。

リモートワークをしながら世界中を旅する夫婦が、楽園(移住先)を探すため、日本で買った軽自動車で南アフリカに向かうも…。

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